委託雑感

初めてその店に行ったのは、11年ほど前になろうか*1。当時は雑居ビルの狭い一室にあって、印刷特有のにおいと、同人誌を求める男たちの熱気に圧倒されたことをよく覚えている。
それからその店は規模を大きくしていき、今では全国に支店を持つ大企業になった。その成長する姿は同人誌が「産業」になっていく姿を見るようだった。私自身も、よく立ち寄っては本を購入していた*2
が、まさかまさか、その店に、自分の本が並ぶ日が来ようとは、しばらく前まで、まったく考えたこともなかった……。
12/29日、コミケット69の日。素晴らしく仕上がった本のおかげで、朝から多くの方が私のスペースに立ち寄ってくれた。私は嬉しい悲鳴を上げつつ対応していたわけだが、そんな時、一人の来客が。
「虎の穴営業課の者ですが……」
驚いた。まさか、まさかの展開。話を聞けば、本を委託してみないか、ということだった。再度驚く。
実は、虎の穴委託に関しては、JH君と共に作戦を練っていた。彼のサークル*3の本として委託できないか、出来るんじゃないか、当初からそういう話はしていた。しかしながら、向こうからまさかやってくるとは。本当にありがたいし、嬉しい。努力が報われた気分。
しかし営業の人、この寒い中&人混みの中、一つ一つのサークルをチェックし、手応えがありそうな本があればこうして名刺を配って歩いているのだろうか。実にご苦労さまである。翌30日もそんな営業の方の姿を見た。業界トップ*4の企業なら、待っていても本が殺到するだろうに、こうして地道な営業活動を進める企業の姿勢に、私はかなり感心した。
で、年が明けてから、メールが届いた。それに従って手続きを進める。が、数点不明な点があった。ということで、電話。品物を納入するには、納品書が必要らしい。本来なら郵送で送ってくれるらしいが、ここは一つ企業見学といこう。来社する旨を伝え、秋葉原へ。
虎の穴事務所は秋葉原駅から歩いて五分ほどのところにある。一見したところ、結構きれいなビル。エレベータを上って事務所へ。内線で来訪を伝えると、電話応対してくれた社員の方が来てくれた。
目的の納品書を受け取り、何点かの質問をする。実に丁重に答えてくれる。力関係で言えば、私のサークルは今回初めて取引するし、取引量も多くない*5。つまり仕入を依頼する私の方が立場は弱いわけで、そーいう立場、力関係は往々にして取引の中で態度となって表れる*6。しかし、対応に当たってくださった社員の方は、そういう態度をまったく見せない。むしろそんなことを考えているこっちが申し訳ないぐらい、丁寧な対応。創立から十年前後の会社だが、実にちゃんとしているじゃないか*7。会場で感じた感心が、感動に変わるといえば大げさだが、それぐらい、㈱虎の穴という企業に好感を持った、ということだ。頂いた納品書を記入し、本を発送。わくわく。
そして今日。行ってきましたとらのあなマリみてコーナーを覗くと……あるよ!俺の書いた本がホントに売ってるよ!しかも平積みだし! 感動*8
と、同時に考える。ここまで来れたのはもちろん、自分の力だけではなかろう。私の力などほんの一握り。一緒に本を作り表紙を描いてくれたJH君、楽しみにしてますと言ってくれた友人たち、そして会場で評価してくれた読者の皆様……多くの人に支えられ、ここまで来れた。支えてくれた気持ちが、本当に嬉しい。
多くの客が行き交う中、本の前で、すべての人に深く感謝。

*1:調査した結果、法人化する前だった。そんな昔から同人誌買ってたのか<俺

*2:とはいえ実は赤木はK-BOOKS派で、K-BOOKSで新刊同人誌が販売されていた頃は、そちらによく寄っていた。

*3:既に虎の穴委託の実績有り。トップページにある通り、C69の本も委託販売されます。リンクコーナーなどから彼のページを見てみてください。

*4:多分。何を持ってトップとするかは意見があるだろうが、赤木的視点ではトップだと思う。

*5:私からすれば多いが、多分他の大規模サークルからすれば、吹けば飛ぶ量だろう。

*6:最も、そういうものが表れるのは、態度よりも取引条件の方が顕著。だが、ここではその辺は全部規定されており、この辺も問題ない。

*7:日本には、創立から百年以上経った会社でも不祥事を連発しているような企業もある。この辺は事業の長さというより、企業、トップの考え方の問題なのだろう。

*8:ただ文庫本だと表紙イラストが値段カードでかなり隠れてしまうのがちょっと残念だ。