マスと個人とコミケット

先日、今は記者をしている後輩と話をした。その中で彼は、コミックマーケットに注目している、と言ったのである。
後輩:「俺、コミックマーケットに注目しているんですよ」
赤木:「どうして? お前アニメとか好きってわけでもないじゃん」
後輩:「そうなんですけど、コミックマーケットはすごいんですよ」赤木:「何が?(まぁ確かにいろいろすごいけどさ)」
後輩:「個人と個人の取引は、各種経済統計に乗りません。しかし、ヤフーオークションコミックマーケット、この二つは相対取引として無視できない規模になりつつあります」
赤木:「確かにな。コミケットはサークル参加三万人、一般参加二十一万人のビッグイベントだ。毎回何万冊もの本が印刷されて、読者の手に渡っていくダイナミズムには驚かされるものがある」
後輩:「でしょう。そこに、PtoP*1があるんです。これからは、PtoPなんですよ。ウチの新聞社は、何百万部と発行してます。だけど、読者とつながっている感覚は全然ない。リアリティをもって体感できないんです。マス(大衆)に向けて発信する限界を感じます。でも、先輩はどうですか? 何部ぐらい売れていますか?」
赤木:「そうさな、場合にもよるけど、百冊ぐらい売れるときもあるぜ」
後輩:「そのとき、先輩と読者は直でつながってるんですよ。ここにリアルがあるんです。何百万というマスとコミュニケーションしている自分たちより、百人の読者とつながっている先輩の方が、遙かに力があると思うんですよ」
赤木:「しかし、参加者の大多数……いやすべては、そんな難しいことを考えてないぞ。基本的に参加者は、単なる漫画やアニメのファンだ。俺を含めてな」
後輩:「逆にそれがすごいんです。参加者は意識してないと思うけど、無意識に、個人と個人のコミュニケーションを成立させている。これからのコミュニケーション、これからのジャーナリズムの形を体現しているんです」
赤木:「なるほどねぇ」
酒を飲みつつ眠くなりつつの会話なので、やや記憶が曖昧だが、だいたいこんな話をしていたと思う。
彼はコミケットに参加したことがなく、細かいところでは、ちょっと誤解している発言も多々あった。しかし、コミックマーケットという巨大なイベントが、全く違う方面から全く違う見方をされていることに、改めて驚いた。後輩の視点の鋭さに敬服した次第。
自分が好きでやっていることが、「これからのコミュニケーション」だなんて、あんまりぴんとこないけど、ちょっと嬉しいよね。夏に向けて頑張る栄養をもらったのでした。

*1:パーソナルtoパーソナルという意味。ここでは、winnyなどに使われている技術の用語ではなく、広い意味で個人と個人がコミュニケーションすることを指す。