宅配便の神様

近所のコンビニから12/30指定でにビッグサイトの東6ホールに荷物を送ると、ちゃんと段ボールが届いている。逆に、ビッグサイトから荷物を送ると、翌日の午前中には家に届く。
こうした宅配便のサービスを我々は当たり前のように享受していますが、実はこれってものすごいことなんじゃ?と前々から思っていました。だって、一万とか二万とか、そういう量の段ボールが動くにも係わらず、荷物は99%以上の確率でちゃんと到着します。

そんな宅配便業界に興味を持った私、本屋で高杉良『挑戦つきることなし 小説ヤマト運輸』(講談社)を手に取りました。
本書は、大和運輸(旧)の小倉昌男元社長(本の中では倉田という名前で登場)が、1971年に小口便を取り扱おうとするところから始まります。当時、個人が荷物を運ぶときは郵便小包しか方法がありませんでしたが、送ってから到着するまで、場所によっては一週間近くかかっていました。原則翌日に配達できる小口便を作って、新たなサービスを提供しよう……と小倉社長は考えます。
しかし社内は大反対。利益の大きい大口取引先を切って手間がかかる小口にシフトしようとする社長はおかしいと散々言われますが、小倉社長はキーマンを説得し、サービスを開始します。
その後、「宅急便」と名付けられた小口便が倍々に成長し、全国で利用できるようになるのはご存知の通りです。小倉は後に、「宅急便の神様」と言われるようになりました。

高杉の伝記的小説では、大抵の場合、新たな挑戦をする主人公に対して抵抗勢力が出てきます。革新的な宅配サービスを成長させていく小倉社長の前にも、郵政省(当時)や運輸省(当時)が嫌がらせまがいの妨害を散々行ってきます。
しかしヤマトは郵政省に抗議文を送りつけ、運輸大臣を訴えて、それらをはねつけます。「1にサービス、2に利益」と唱え、顧客・世論を味方にして、「ダントツ」業界最大手として君臨します。
その困難に立ち向かう姿は、見ていて本当に偉大だと感じさせます。
http://www.kuronekoyamato.co.jp/company/30th/index.html
http://www.kuronekoyamato.co.jp/company/30th/window_03.html
こちらも参照。

今も郵政民営化という困難がヤマトの前に立ちはだかっていますが、きっとヤマトは挑戦し続けるのでしょう。
宅急便を見る目が変わる一冊です。


余談−−
ヤマト宅急便と言えば「クロネコ」です。あのキャラクタは、1959年、アメリカのアライド・ヴァン・ライズ社のネコのキャラクタを模して作られたそうです。アライド・ヴァン・ライズ社のネコは写実性が強すぎる、と感じた斉藤という担当者は、様々なネコをスケッチしますが、うまいキャラクタができません。困った斉藤は、息子にネコを描かせます。すると、耳と顔が非常に大きなディフォルメされたネコの絵が。「これだ!」と思った斉藤。このスケッチを元にしたキャラが一気にトップまで承認されました。これが我々がいつも目にしているクロネコの元祖だそうです。
でも酒乱気味の斉藤は、社長からもらったボーナス3万円(今なら30万円ほどの価値)を全部飲んでしまったそうです……さらに斉藤はこの九年後、酔ってモチをノドに詰まらせて52歳という若さで亡くなってしまいます。

斉藤は宅急便が誕生する前に亡くなりますが、クロネコは今や日本人誰もが知っているキャラクタになりました。きっと草葉の陰で、酒を飲みながら喜んでいるのでは……と思います。