大阪紀行 最終回「天へ……」

まだまだ日が高い中、関西国際空港に到着した。まだ新しさが残る外観。中に一歩入ると、やはり新しさを感じた。エスカレーターで、国内線乗り場へ。
飛行機に乗るのは5年ぶりだなぁ。前回は羽田から北海道に行ったんだっけ、あのときはジャングルポケットが負けたし*1サクラローレルは見れなかったし……と思いつつ、全日空の窓口で、搭乗手続き。窓側の席が取れた。
ボディチェックを受けるゲートに向かう途中、電車の切符販売機が目に入った。羽田からの切符が買えるらしい。よし、買おう。普段は専らモノレールに乗っているが、今日は京急線で帰ってみよう。値段も少し安いしね。
切符を買ってから、ボディチェック。待合室から、空港を見る。大きな橋が見えた。うーむ、渡っているときは寝ていたか。あれが関西国際空港に架かる橋だな。大きいなぁ。そして視点を近くに移すと、ジャンボジェット機が。毎回飛行場来るたびに思うのだが、こんな大きな鉄のかたまりがなぜ飛ぶのだろうか……ライト兄弟もジャンボジェット見たらビビるに違いない。
このあたりから、少しずつ、少しずつ、不安が鎌首をもたげてくる。
時間が来た。飛行機に乗る。シートベルトを締めて、窓の外を見る。翼と、関西国際空港の対岸の町が見える。しかしシートに座っても、いつまでも動き出さない。飛行機っつうやつは、早いけどこれが面倒ね。しばらく待つ。
ちょっとして、動き出した。外は、夕暮れから夜の暗闇に変わっていた。まもなく離陸というところで、関西国際空港の対岸の町の灯りが目に入った。
突然。ああ、帰りたくないと思い始める。
旅行はたまにするし、大阪だってこれで三回目だけど、なぜだか、今回は本当に帰りたくない。そっか、それだけ充実した旅だったのか……初めてかもしれない切なさ。昨日、今日会ったすべての人を思い出しながら、忘れまいと、かみしめる。
そんな私の気分などお構いなしに、飛行機は、ゆっくりと、ゆっくりと滑走路へ向かう。そして、ジェットエンジンが火を噴いた。いきなり急加速。ひっ、ひいっ。センチメンタルな気分などどこへやら、急に怖くなってきた。
そして、離陸。ひー、なんか浮いてるよ! 地面についてないよ! 怖え!怖え!怖え!
下ろしてくれ〜! 心の中で悲鳴を上げながら、飛行機は関西の空を舞い上がる。




離陸して十分ほど。
「震えていたという道世さんも、十三時間ずっと怖がっているわけにもいかないと開き直ったのか、今は逸絵さんたちと「大貧民」をしている」(今野緒雪マリア様がみてる チャオ・ソレッラ」より)
よく考えりゃ、飛行機なんて毎日何百本も飛んでるのに、事故なんかそうそう起きないじゃないか。まさかこの機がピンポイントで事故るわけもあるまいよ。ビビっていてもしょうがないわな。道世さん、その気持ちよくわかった。オレと君は今の今からソウルメイトだぜ……などと思いつつ、寝ようにもやっぱりちょっと落ち着かないのでそのままぼーっとしている。
あー、今どの辺なのかな、とか。あー、そういや原稿書いてないな、とか。あー、そういや今日は阪神勝ったんだよな、とか。
とりとめもなく考えていると、少し揺れが大きくなる。ん? と思ったとき、機長からアナウンスが。
「当機はこれより、雲の中を通過します。揺れが大きくなりますが、安全性には問題ありません」
突然不安になる。問題ないとか言われたって、不安になるっつうの! すると、アナウンス通り揺れがひどくなる。たまに、宙に浮くような感覚になる。ひー、やっぱり怖いよう!
気を紛らわすため、窓の外を見る。すると、翼の先端あたりに発光体が! 「ぎゃー! なんか出たー!」「落ち着け! あれは翼の幅を知らせる明かりだ!」 がたがた。揺れる。とにかく耐える。飛行機ってこんな時間かかるのか?50分とか嘘だろ! と耐えていると。
「当機はこれより着陸態勢に入ります」
おお、やっと着いたのか? 早くしてくれ! と思っていたら、飛行機の高度が下がっていった。
すると、窓の外に粒子状の未確認飛行物体が多数!「ぎゃー! UFOだ〜!」「落ち着け! あれは雨粒だ!」 つうかアナウンスで、東京地方小雨とか言ってたじゃねぇかよ! 大雨じゃんか! 嘘つくな!
などとやっていたら、ぱっ、と明かりが目にはいる。「Tokyo International Airport」おお、羽田空港だ! やっと着くぞ!
だがその瞬間、いやなことを思い出す。
航空機事故は、着陸時に起きる確率が高い、と。
まさかここで車輪がもげるとか胴体着陸とかねぇだろうな! 最後の最後で「やっちゃいました、テヘッ」コースはなしだぞ!
着陸間際。その瞬間、私の頭の中に、歌が流れる。
燃える闘魂
この一振りに
唸れ今岡
誠の救世主
*2
ガコン(着陸の音)
ひーっ!!!!!


こうして、飛行機は、多少遅れたものの、なんてことはなく、羽田空港に到着したのだった。
「地上に着きさえすれば、オレの方が王だぜ……」
ぐったりしながら、赤木はそう思った。


荷物を受け取り、まだちょっと気持ち悪いが、さあ電車に乗って帰ろう。モノレール改札前を通る。すると、「休日限定 モノレール⇒山手線500円」なんて切符があるじゃありませんか。おいおいハメかよ。京急線より安いじゃんか。そういうのは先に言えよなこの野郎。まぁ、もう切符買ったからどうしようもないんだけど。と、ポケットに手を突っ込む。
ん?
あれ?
あーあ。
いや、やると思ってたけど、本当にやることねぇよな、オレ……
そうです、大阪で買った京急線の切符なくしました。



ラーメンを食べるはずだった500円で、休日限定切符を買ってモノレールで帰宅。

*1:札幌記念。勝ち馬はエアエミネムだった。

*2:ネタのように聞こえるが、着陸の瞬間、本当に今岡の応援歌(それも旧版)が聞こえたのです。不思議だ……。